同じプラットフォームでも想像以上に存在する独自性
そういう意味で予想以上に好印象だったのがQ7 3.6FSIクワトロである。コンベンショナルなサスペンションは路面感覚が豊かで、ワインディングロードでも結構楽しめる。あまり姿勢変化を誘発しようとすると、サイズがあるだけに揺り返しも大きいが、無理せずクルマなりに走らせてやれば長いホイールベースが高い安定感をもたらし、基本前後トルク配分を40:60としたトルセン式のクワトロシステムが、気持ち良い姿勢での立ち上がりを可能にしてくれる。
また高速道路でも、ホイールベースの長さが活きているのか、楽に直進を維持できる。乗り心地は硬めだが、ピッチングが抑えられているので不快ではない。もっとも気になるのはエンジンパワー、というか低速域のトルクに余裕がなく、頻繁に全開を強いられることかもしれない。回すとこのエンジン、正直にうるさくなる。
全体的に見て、クルマと格闘させずサラッと速く走らせるという意味ではQ7は、まさにアウディと言えるかもしれない。
トゥアレグは予想通り、もっとも穏やかな手触りだ。径の大きなステアリングを切り込むと車体が大きめにロールして、良い意味で飛ばそうという気にさせない。ただし、エンジンは基本的にQ7と変わらないはずだが、こちらの方がトルクフルに感じられた。車重の差は10kgだというが。あるいはエンジン音が小さく、躊躇なく踏めるせいでそう感じたのかもしれない。
面白いのは、ワインディングロードで走らせてみると、姿勢変化の大きさとホイールベースの短さのおかげで、案外に操り甲斐があること。もっとも、その代償で高速域で落ち着かない印象もあるのだが、それも含めてアウディとはやはり違う世界が、そこにはしっかり構築されているのだ。
こうして3台まとめて乗り較べてみると、それぞれの走りのキャラクターには、事前に想像する以上の違いがあることがわかる。中でもカイエンGTSは、やはり突き抜けていた。その操縦性はSUVという範疇をさらに半歩踏み出し、とにかく潔くポルシェたろうとしているからだ。
いや本当はアウディだってフォルクスワーゲンだって、それぞれに「らしく」あろうとしている。そういう意味で、意気込みに差があるわけではない。言ってみれば、それは単なる出自の差。ポルシェはスポーツカーメーカー、他の2社は量販車メーカーなのだ。
そう言えばカイエンについて、フォルクスワーゲンやアウディと基本骨格を共有しているからというネガティブな評価を下す声はほとんど聞かない。それは、そのプロダクトが紛れもないポルシェとして隙のない仕上がりを見せているからだろう。
しかしながらポルシェは、カイエンにGTSを設定することによって、そのことを改めて強く印象づけようとしているように思える。モデルライフの後半に入っているはずの現行カイエンに依然として変わらぬ魅力を感じさせる材料としても、その存在は十分以上のものがある。どうやら彼らの戦略は、またも見事に的中したようだ。(文:島下泰久/Motor Magazine 2008年7月号より)
ポルシェ カイエンGTS(6速MT) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4795×1955×1675mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2300kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4806cc
●最高出力:405ps/6500rpm
●最大トルク:500Nm/3500rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速MT
●車両価格:1020万円(2008年)
アウディ Q7 3.6FSIクワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高:5085×1985×1740mm
●ホイールベース:3000mm
●車両重量:2270kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3594cc
●最高出力:280ps/6200rpm
●最大トルク:360Nm/2500-5000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:698万円(2008年)
フォルクスワーゲン トゥアレグV6 主要諸元
●全長×全幅×全高:4755×1930×1730mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2260kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3594cc
●最高出力:280ps/6200rpm
●最大トルク:360Nm/2500-5000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:557万円(2008年)