1.4Lツインチャージャーは2.4L相当の出力を発生
そのいっぽう、真打ちというべきTSIエンジンが2006年に登場する。ダウンサイジングとして騒がれたエンジンである。その最初のエンジンはGT(日本ではGT TSI)に搭載されたが、わずか1.4Lながら170ps/24.5kgmという通常の2.4L相当の出力を得ており、なおかつ燃費も優れていた。このエンジンは、過給器としてスーパーチャージャーとターボを使う、2段過給が奢られていた。
2段過給は、1980年代にランチア デルタS4と日産マーチ ターボRという先例があったが、どちらもラリー参戦のための競技目的の車両だった。それに対してGTのTSIは純粋な実用車であり、高出力と低燃費を両立することを目的として、もちろん扱いやすさも備えていた。ただ、フォルクスワーゲンがこれを市販車初のツインチャージャーと謳っているのは厳密には正しくなく、日産マーチでは、同じエンジンを一般ユーザー向けのマーチ スーパーターボにも搭載していた。もちろんGT TSIのほうがより一般的とはいえるが、このツインチャージャー ユニットはTSIとしてもやや特別なエンジンだった。
その後、ターボチャージャーのみのシングル過給TSIが投入され、こちらが主流になっていく。当初のTSIは、あえてツインチャージャーにしてダウンサイジング エンジンの実力を強調する狙いがあったといわれる。実際は、最初からシングル過給で十分な性能を得ることは可能だったのだ。シングル過給エンジンは当然コストが下がるので、下位モデルにも搭載されて普及することになる。
TSIは、ディーゼルの技術をガソリンに応用したもので、直噴とターボを組み合わせることで高効率化する技術はTDIエンジンで既に実績を積んでいた。ディーゼルは、ヨーロッパではこの頃には半数近くを占めるようになっており、トルクがあるうえ直噴ゆえにレスポンスも良いので、スポーティなエンジンとして認識され、ガソリンが頼りなく感じられる傾向があった。TSIはディーゼルに近い特性で、燃費を重視した時代のエンジンではあるが、当時まだ走る楽しさに欠けていた日本のハイブリッドと違って、活発に走るエンジンということが魅力だった。
このTSIと組み合わせたトランスミッションのDSGによって、フォルクスワーゲンの先進性がよりいっそう際立った。ATは当初はアイシン製の6速が採用されていたが、途中から導入されたDSGは、2ペダルでATとして使えるにもかかわらず、従来からのMT車と同じようにシフトチェンジにダイレクト感があり、マニュアル操作もできた。CVTや当時のトルクコンバーター式ATと比べて、走る楽しさをスポイルしない自動変速機として歓迎されたのである。(文:武田 隆)