2009年、かつてない規模の大がかりなマイナーチェンジが実施されたポルシェ ボクスターS/ボクスター、ケイマンS/ケイマンが日本に上陸した。エンジンが一新され、7速PDKトランスミッションが搭載されたその内容は、「次期モデルの先取り」とも言われた。ミッドシップレイアウトを採用する2つのモデルの味わいはどのようなものだったのか。Motor Magazine誌では上陸したばかりの4台の試乗テストを行っている。今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年6月号より)

MTとの組み合わせで見えた楽しみと独特の癖

そんなボクスターSから、同じエンジンを搭載するケイマンSへと乗り換える。ただし「同じ」とは表現をしたものの、その最高出力と最大トルクはこちらがさらに10psと10Nm増しとなる320ps/370Nmという値。

ちなみにこの両者の差は、事前にそれを教えられていても実際に体感するのは困難、という程度に過ぎない。「性能面では、もはやMTは敵ではない」というのがポルシェのPDKに対する見解。しかし、だからと言っていわゆるドライビングプレジャーの面でもすべてPDKが勝っているのかといえば、そんなことはなさそうだ。

たとえば、クルマを操る楽しみを「自らの身体が持つ運動能力を、大幅に増幅して表現できること」と置き換えて考えられる人にとっては、会心のクラッチワークを決めた際には得も言われぬ思い通りの加減速を実現させ、一方でラフなクラッチワークに甘んじればガクガクとクルマの動きも不満を露にしたものとなるMTのコントロールは、それ自体がドライビングの楽しさの一部でもあるのではないだろうか。

そして、実はそう考えると、ここまで褒め称えてきた3.4Lの直噴新型エンジンにもウイークポイントが見えてくる。それは、従来型に搭載されたポート噴射式295psユニットに比べると、アイドリング近辺という極低回転域でのトルクに関してのみは、新型の方がやや痩せてしまっていると感じられることである。

従来の3.4LエンジンをMTで乗ると、それは「スタートの度に体感されるクラッチミートの瞬間がとても心地良いもの」であった。

クラッチペダルを踏む左足の踏力を徐々に緩め、トルクが後輪へと伝わり出した瞬間を感じながら同時にアクセルペダルを踏む右足に力を込めると、タコメーターの針がアイドリング時とピタリ同回転を示したままに、クルマはスルスルと動き始める。そんな一連の動きが何とも思い通りに決まるのが、これまでのボクスターS/ケイマンSをMTで操ることの大きな魅力のひとつであった。

あるいはそれは、アイドリング状態でも「無駄に大きいトルク」を発しているという、そんなエンジンの性格ゆえの現象だったのかも知れない。燃料量を合理的に絞り込んだ新エンジンでは、だから前述のような印象が生み出されている可能性は否定できない。

画像: ケイマンS。ボクスターをベースにしてクーペモデルとして改めて開発されたケイマンのSモデル。ボクスターSと同様、新設計の3.4L水平対向6気筒エンジンを搭載するが、ケイマンSのほうが10psハイパワーとなる。試乗車は6速MT仕様。

ケイマンS。ボクスターをベースにしてクーペモデルとして改めて開発されたケイマンのSモデル。ボクスターSと同様、新設計の3.4L水平対向6気筒エンジンを搭載するが、ケイマンSのほうが10psハイパワーとなる。試乗車は6速MT仕様。

いずれにしても、アイドリング付近でクラッチミートを行った際の心地良さに関しては、やや低下したと感じられた。加えれば、ダウンシフト時にアクセルペダルをあおってエンジン回転数を下のギアにシンクロさせる際のコントロール性も、従来型に分があった。

新型でそれを行うと、時にエンジン回転数が上がりきらずにショックを発し、あるいは逆に上がり過ぎてショックを発するという場面に多々遭遇。このあたりも、わずかなアクセル操作に対する燃料の吹き方に何らかのクセがあるために生じる現象であるようだ。

そして、見方を変えれば新しい直噴ユニットは、やはり「よりPDK向きのエンジン」という言い方もできるだろう。なぜならば、MTとの組み合わせで乗ると少々気になるポイントも、PDKとの組み合わせでは微塵も感じられなくなるからである。

ところで、そんなケイマンSのテスト車のシューズはオリジナルの18インチのまま。確かに、ターンイン時点での舵の効きのシャープさは19インチ仕様に及ばない。それでも、そもそもミッドシップレイアウトの持ち主であるこのモデルの回頭感は十二分に軽快だし、先に紹介したボクスターSのように低速域での突き上げ感が急増するような現象を起こすこともない。

付け加えれば、ボクスターSに比べるとややハードなサスペンションセッティングが与えられたとされながらも、乗り心地の印象でこちらが勝るのは、やはりボディのポテンシャルの違いだと想像がつく。たとえ同様なモードの振動がボディに入っても、その減衰はケイマンSの方がはるかに早い。

言い方を換えれば、より高性能なボディを持つがゆえに、さらにスポーティなセッティングのサスペンションを与えることができたケイマンS。ケイマンのボディは、ボクスターのボディに比べるとやはり「よりピュアなスポーツカーのもの」ということになる。

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