電動化モデルSFはフェラーリ史上最強に君臨
2021年のスポーツカー&スーパーカーシーンは、旧世代のエピローグと新世代のプロローグのはざまにあって、全般的に見ればブレークタイムのようだった。欧州勢、とりわけスーパーカーブランドがそうで、次世代を担う電動化もしくは電動化前提のニューモデル発表が相次ぐ一方、日本市場における実際のデリバリーに関していえば、旧世代の延長線上にあるモデルが多かった。
その間隙を見事についたのがシボレー コルベットである。1954年の登場から年もの間守り続けてきた「FRのGTカー」というコンセプトを潔く捨て去り、ミッドシップの本格スポーツカーへの大転換をGMは決意した。
もとよりその背景には世紀的なエンジン付きスポーツカー界において世界のトップを極めるという悲願(歴代コルベットが常にフェラーリコンプレックスを抱えていたことはよく知られているし、黎明期には新興勢力のポルシェがライバルでもあった)を達成する最後のチャンスでもあったし、同時にそれはスポーツカーとしてのコルベットの生き残りを賭けた選択でもあった。フロントエンジン車よりもリアミッドシップ車の方が重いバッテリー搭載には向いているからだ。
果たしてポンティアック フィエロくらいしか量産経験のないミッドシップの、しかもV8エンジンを積んだスーパーカーカテゴリーに属するコルベットの生産をGMは決意した。
過去のしがらみがない分、純粋にエンジニアリング主義を貫けたに違いない。第8世代のコルベットは街乗りから長距離ドライブ、そしてサーキットまでを高いレベルでオールマイティにこなす素晴らしいミッドシップカーに仕上がっていた。
今後は新設計のV8 DOHC自然吸気エンジンを積むZ06や、さらにその先のPHEV、BEV仕様の追加など、まさに期待は膨らむばかりである。
一方、スーパーカー界の雄フェラーリはといえば、最強のビジネスモデルを一層堅牢に固め、未来への確実な足掛かりを得ていた。
F8シリーズやポルトフィーノMといったシリーズモデルの日本デリバリーが順調に進んだ一方で、近い将来のフラッグシップとなるべく3モーター+バッテリーを積んだ新世代のV8ミッドシップモデル、SFシリーズを精力的に納車している。
ポルトフィーノMと2020年に登場したローマという姉妹モデルは、よくできたFRのスポーツカーという以外に、今後のフェラーリデザインを占う試金石にもなった。
フェラーリのロードカーデザインは今後、よりシンプルな方向へと向かうことが予想されており、296GTBや先だって発表されたイコナ(ICONA)シリーズ第3弾のデイトナSP3のように、派手な空力デバイスをできるだけ使わない方向を目指す。
事実上、新たなフラッグシップと目されるSFシリーズのパフォーマンスはまさに異次元であった。もはや公道でその性能を知るなんてことは不可能だ。過去のフラッグシップである12気筒FRシリーズにおける限定車812コンペティチオーネも日本で購入者のみに披露されたが、最大の魅力である官能的なエンジン性能もまた公道で味わうことは事実上無理というものだろう。
フェラーリは今、クルマを買ったあと、仕舞い込むのではなく頻繁に乗るユーザーを大切にしている。一般の人にも見せるチャンスを増やそうという魂胆だ。ブランドビジネスの要諦は裾野を広げていくこと。そのために高性能モデルやトラック専用車を買って、サーキットで楽しむための機会も増やしつつある。
一方でフェラーリ流のSUVやBEVの発表も間近に迫ってきた。ロードカーとサーキット専用車、マラネッロのビジネスは今後いっそう二極化することだろう。