ノーマル車や標準車などというあり方を素直に喜べない、という人も少なくないだろう。そこに、どうしても“多数派のための妥協点”があると考えてしまうからだ。クルマ好きらしいもっと絞り込んだ仕様を望むならば、ワークスチューンは格好の存在だ。(Motor Magazine誌 2024年3月号より再構成)
真剣に向き合うことで生まれる緊張と解放
かくも街乗りユースまでの配慮が行き届いたそんなGRカローラに対し、徹底して「公道も走れるレーシングモデル」という印象が強いのがGT-Rニスモである。
現行型デビューは2007年末だが、絶え間なくリファインの手が加えられてきたことで、現在でも日本車きってのトップパフォーマーとして不動の地位を誇るGT-R。その中でも、ニスモならではの知見をふんだんに注ぎ込み、シリーズの頂点に立つ走りのパフォーマンスを標榜するのが、その時々のニスモバージョンだ。
そのキャラクターの持ち主ゆえ、本来のパフォーマンスを解放できる舞台は、サーキット以外に考えられない。正直なところ、今回のテストドライブでもアクセルペダルを深く踏み込めるのは、ほんの一瞬に過ぎないものだった。
それでもハンドルを握っていると、精緻なメカニズムの集合体がもはや熟成の域に達していると実感できて、持てるパフォーマンスのほんの数%しか発揮できない状態で走っていても、思わず頬が緩んでしまうのがこのモデルのドライブフィール。
転舵操作に対して一瞬の遅滞も見せない舵の効きや、これ以上ないという濃密な路面とのコンタクト感に「クルマと真剣に向き合ってドライビングをする快感」を汲み取れるのだ。
誕生当初にはオールラウンダーなスーパースポーツモデルを標榜していたGT-Rが、サーキットでのスピード性能に照準を合わせれば、こうした仕上がりへと昇華される。それを見せつけてくれるのが、GT-Rニスモというモデルなのである。(文:河村康彦/写真:井上雅行)