現行型オーナーを翻意させた?洗練された乗り心地と安心感
足まわりの進化も小さくない。試乗した高性能版のRZ“High performance”には、サーキットを攻め込むことを念頭に、限界域での速さとコントロール性を追求したチューニングが施されているが、走り出してすぐに感じるのは乗り心地が良いことだった。
スポーティな初期型が悪かったわけではないものの、跳ねや微振動が見受けられたが、引き締まっていながらも動き始めから足がよく動くようになった進化型は、同じタイヤを履くとは思えないほどグリップ感が増して、質の高い走りになっている。しっかりとしなやかに路面を捉える感覚がハンドルからも伝わってくる。
GRヤリスの車両重量の軽さとホイールベースの短さは、ワインディングロードでは大きな強みとなる。強力な動力性能とともに、キビキビと意のままに操れるのもGRヤリスなればこそである。
さらに、シャシとボディが強化された進化型は、そこに上質さと安心感が加わった。タイヤがしっかり路面を捉える感覚が伝わってくるおかげで、より快適で不安なく走れるようになった。
これには走りの精度感が増して、ハンドルを微舵の領域から切ったとおりに応答遅れなく動いてくれるのも効いている。その恩恵はワインディングロードはもちろん、公道をごく普通に走っても十分に味わうことができる。
自動車検査証によると、後軸重は同じ510kgで、前軸重は790kgと770kgと20kgばかりAT仕様が重い。それもあってATの方が、ハンドリングと乗り心地が微妙にマイルドに感じられた。
新調されたドライブモードがもたらす、新たな醍醐味
さらに、高性能なアクティブトルクスプリット4WDのモード選択により走りが変わり、FFベースの4WDながら後輪駆動のような走りを楽しめるのも魅力である。
基本性能が向上した進化型は、より各モードでの走りのキャラクターの違いが明確で、駆動力をリアよりにしても4WDには違いないので安定性が高く、多少の操作ミスに寛容なのもありがたい。
また、ドライブモードセレクトで好みの走りのテイストを選べるが、MTとATで若干違いがあり、アクセルレスポンスが、MTはノーマルモードが「ノーマル」で、スポーツモードが「アジャイル」となるのに対し、ATはどちらも「アジャイル」となり、コンフォートモードでのみどちらも「コンフォート」となるあたりも、ATの位置づけが窺える。
GRヤリスの小さな車体には、モータースポーツで勝つためのメカニズムとノウハウがギッシリと凝縮されている。世界の頂点で戦うパフォーマンスの片鱗を味えるところに、GRヤリスに乗る醍醐味がある。世にある高性能車の中でも、ひときわ異彩を放つ存在に違いない。
そんなGRヤリスがさらに進化し、2ペダルでもその世界観を味わえるようになったことを歓迎したい。(文:岡本幸一郎/写真:井上雅行)