摩擦円を使い切らない走行テクニック
摩擦円を最大限に使うということは基本だが、基本だけではない。摩擦円を最大に使わないテクニックというものも存在するので解説しよう。
たとえばジムカーナで良く使われるサイドブレーキターンだ。手順としては、まずブレーキングでしっかりとフロントタイヤに荷重を移してリアタイヤの荷重を抜き(摩擦円を小さくし)、旋回を始めた瞬間にサイドブレーキでリアタイヤをロックさせて小回りする。見た目は180度、270度、360度、あるいは8の字などアクロバティックだが、きちんとタイムも縮めることができる。
こうする理由は、クルマの持つ最小回転半径で摩擦円を最大限にして速いコーナリングをするよりも、リアタイヤを滑らせて距離を短く(回転半径を小さく)走った方がタイムが良いと判断するからだ。
ドリフト走行も、摩擦円を最大限まで使わないことで派手な走りをするテクニックと言える。オーバースピードから、サイドブレーキや極端に速いステアリングワークを駆使して、わざとリアタイヤのグリップを失わせる。つまり摩擦円を使い切っていない。
![画像: 雪上などでのドリフト走行は、荷重がかからず小さい摩擦円をコントロールするためにカウンターステアを使う。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2021/07/27/c947800db6e41ebcd8e0f00e86874ac92bd59c55_xlarge.jpg)
雪上などでのドリフト走行は、荷重がかからず小さい摩擦円をコントロールするためにカウンターステアを使う。
そのままだとスピンしてしまうのでカウンターステアを当て、フロントをリアのスライドに合わせて外に逃がしてやればドリフト走行の完成となる。だから、決して速い走り方ではない。
ラリーやダートトライアルといった土系のドライビングでもドリフト走行をしようするが、これは路面側の都合によって、もともと摩擦円が小さい状態になっているから、必然的になってしまうことが多い。
意図的に行う場合は、コーナーでのグリップが期待できないので、早めに向きを変えておいてストレートの加速でタイムを稼ごうということだ。
![画像: かつての曲がりくい4WD車では一旦ノーズを外側に振り、さらにインにステアリングホイールを切り込むことにより、一気にアウト側のタイヤに荷重を移し強引に挙動を変化させるテクニックを用いた。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2021/07/27/b0bd8f19bdd6d9394839f2201c59059791f2c878_xlarge.jpg)
かつての曲がりくい4WD車では一旦ノーズを外側に振り、さらにインにステアリングホイールを切り込むことにより、一気にアウト側のタイヤに荷重を移し強引に挙動を変化させるテクニックを用いた。
現在はあまり見られなくなったが、センターデフがなかったり強化ビスカスの4輪駆動では、クルマを曲げづらいため、一度ノーズをコーナー外側にふって荷重をインに移し、ステアリングを一気にコーナー内側に切り込むとともに、イン側の荷重をアウト側へ移すことをきっかけに強引にコーナリングに持ち込むフェイント走法なども見られた。こうしてテールスライドを誘発させているわけだ。
もちろん速いドライビングをするにはタイヤに荷重を乗せて摩擦円を最大限に使うのが良い。ただし、それだけでなく、いろいろトライして「引き出し」を多くすることが、ドライビングの上達に役立つはずだ。(文:Webモーターマガジン編集部 飯嶋洋治/イラスト:きむらとしあき/写真:三菱自動車、BMW、アウディ)