日常使いで感じる2台、それぞれの滑らかなトランスミッション
ウルティムは、サーキットでも通用するようにサスペンションがかなり強化されているので、さすがに一般道路での乗り心地はどうかと懸念したが、そんな心配は無用だった。
確かにスポーツモデルらしい張りがあり、不快感のないギリギリまでサスペンションを締め上げた感じ。が、お尻に刺さるような強烈な突き上げはなく、大きな入力に対しても跳ねるような挙動もない。アンジュレーションでも常に路面をしっかり捉えている。長年、私にとってのFFスポーツのリファレンスとなっているのがルノースポールのモデル。さすが安定の性能だ。
また、インジケータのデジタル表示の下にはクルマのリアビューが表示される。そしてウインカーやハザードを点灯すると、連動してグラフィック内でも点滅する。ハードなスポーツモデルでも、日常シーンでのオシャレな遊び心を忘れないところもルノーらしい。
本誌10月号の取材でゴルフRのベースモデルに乗ったばかりだが、20イヤーズは乗った瞬間からドライブフィールが異なる。リリースではパワーアップのほか、高速域でのパフォーマンス向上などが列挙されるが、常用域でも全体的にそれぞれのパーツの精度が高まったような印象で、とにかくステアリングホイールからサスペンションまであらゆる動きがスムーズで心地よい。
これは2台ともに言えるが、ストップ&ゴーや低速走行時でも滑らかなフィールのトランスミッションが秀逸だ。
ワインディング路でわかった曲がりたくなるほど安定したコーナリング性能
ワインディング路に入ると、2台とも水を得た魚のように、より生き生きするのは言うまでもない。通常のFF車はフロントタイヤに意識がいき、リアタイヤは勝手についてきてくれるというイメージ。だがウルティムはリアタイヤの存在感が大きかった。それは4コントロール(四輪操舵)であることに加えて、四輪を常にしっかり接地させるということを強く意識できるからだ。
またラリーの競技用に開発されたHCC(ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)ダンパーも大きく貢献している。大きなギャップでは、当たりの優しい20イヤーズの方がむしろ跳ねが大きく、ウルティムは大きな入力はあるものの接地は失わない、というシーンがあった。
ウルティムのドライブモード「マルチセンス」は、「マイセンス」「セーブ」「レギュラー」「スポーツ」「レース」が選択できる。モード変更によってスポーツエキゾーストのサウンドや、パワーフィールがわかりやすく変化した。とくに加速時のパワー感は、20イヤーズよりウルティムの方がモードによる違いを感じた。この点、ドライバーにエモーショナルな感覚を与えるという意味で、ウルティムの演出が上手いと感じた。
一方、20イヤーズに搭載されるアダプティブサスペンション「アダプティブシャシーコントロール(DCC)」の違いも試した。ベースモデル同様の「コンフォート」「スポーツ」「レース」「カスタム」のモードに加え、20イヤーズ専用モードとして「スペシャル」と「ドリフト」モードが追加される。「スペシャル」を選択すると、ニュルブルクリンク北コース(以下、ニュル)が画面に表示されるのだが、これにはテンションが上がった。
このモードは実際にニュルでテストをして、要求の厳しいレーストラックで走るために新設計されたのだが、これを選択するとアイドリングの音が野太いサウンドに変わり、加速からアクセルを戻すとマフラーからパンパンと音がする。これだけでもスポーツマインドが掻き立てられる。残念ながら今回の試乗は公道のため「ドリフト」モードは試せなかった。
ゴルフらしいと感じたのはたとえ「スペシャル」を選択しても牙を剥いたり、尖ったりすることなく、どこまでもスムーズで穏やかな点。ハンドルの操舵力は軽めで、無駄に力が入ることなく4モーションならではの安定したコーナリングを味わえる。