しなやかな身のこなしは「ちょい重め」でも健在
A110Rチュリニにおいてもっとも懸念されるのは、そのバネ下重量の増加による乗り味への影響だろう。
果たしてその差は一般道からワインディングロードレベルではほとんど感じることがない。サスペンションの追従性の低下は無視できるレベルではないかと思う。それどころか、場面によってはその追従性には磨きがかかっているようにも窺える。
そして乗り心地そのものもまったくネガがない。凹凸のいなしもむしろ優しく感じられるほどだ。
間違いなく言えるのは、素材減衰の差異だ。リアルな路面変化を前提にカーボンの共振特性を既成タイヤと組み合わせながらサスペンションでキャリブレーションする作業はメーカーもサプライヤーもノウハウに乏しく、相当難儀な作業となるはずだ。
むしろ癖を知り尽くしネガを潰しきったアルミの方がリアルな入力との相性がいいという状況は十分考えられる。
そのうえで想像できるのは、A110そのものの車台と足まわりの素性の良さ、そのうえで自重そのものの軽さによる許容度の高さだ。
登場当初から最大級の賛辞を浴びてきた、そのしなやかな身のこなしは、Rグレードの由来でもある市販グレードとしてもっとも固められたシャシのラディカルをもってしてもなお健在だ。
さすがにロール量の規制感はぐっと高まるが、ケース剛性の高いカップ系のタイヤを履いてもなおこれほどしっとりとトレッドを接地させつつ路面状況をねっとりと伝えていく、そのまとわりつくような饒舌さはフランスという出自を軸足に、エンジニアリングがたぐり寄せた稀なる境地なのだと思う。
A110とロードスターシリーズに共通するのは、前述のようにその振る舞いの情報量が、圧倒的に大型で高出力、そして高額のスポーツカーと比べても劣らないどころか得てして勝ることにある。
限られた物量でそれをどこまで増感させることができるのか。そこに一足飛びでポンと辿り着いたアルピーヌも凄ければ、30年以上にわたって求心的に究め続けるマツダもまた素晴らしい。それはともに軽さにまつわる成功体験と敬意があるがゆえの着地点なのだろう。(文:渡辺敏史/写真:永元秀和、佐藤正巳)