太いタイヤと両腕が一体化し、エンジンが回り密度が高まる
一方のM2はどうか。
日本向けのBMWでいま、3ペダル付きはMモデルに限られている。つまりM専用「S」型エンジンのみに組み合わされているわけで、性能も官能性もそりゃ良いに決まっているわけだけれど、それが操りやすいかと問われるとちょっと過剰だとも思う。
その点、B型エンジンなら、先代M2の前期モデルがそうであったようにストレート6の官能性も余裕をもって味わえた。
とはいえ、その戦闘力の高さを考えると、街中での多少の扱いづらさも我慢するほかない。兄貴分のM4からわずか30ps落ちのS58エンジンを積んだ、言ってみればM4SWB(ショートホイールベース)版というのが、この最新M2の正体なのだから。
実際に駆ってみれば、動き出した瞬間からそういう雰囲気に満ちている。街乗りではソリッドな乗り心地と前脚の存在感の大きさがいかにもM4的だし、比べてさらにスパルタンさを感じることさえあったのはSWB版ゆえだろう。
それでも速度が増すにつれて乗り心地からはカドが取れ、しまいにはビーズの波をくぐっているかのようなライドフィールに包まれる。高速クルーズも、なかなかのものだ。
あれだけでかいタイヤ(とくにフロント)を履いているというのに、存在感こそあれど、まるで違和感なく動く。そんなに太いタイヤと両腕がつながっているようにはまるで思えない。濡れて荒れた路面でも前輪の動きはドライバーに忠実で実に運転しやすい。
車体全体の素晴らしさを増幅するのがS58エンジンの役目である。さすがの力強さと官能フィールで、ドライバーを鼓舞し続けるのだ。
回せば回すほどに足元から腰へと一体感の密度が高まっていく感覚こそ、よくできたエンジンというもので、内燃機関を操る喜びを十分に味わうことができる。
何より、このマニュアルギアボックスの仕上がりが良い。シャシ制御とともに、先代のM2から大幅に良くなったと思えた点だ。
先代のMT仕様は、エンジンの官能性と手足を駆使する楽しみだけで買わせていた。肝心のMTそのものフィールには節度感が欠けており、シフトレバーの操作性そのものが気持ち良いとは決して思えなかった。それが現行モデルではかなり改善されている。
なるほど、すでにこのクラスでも2ペダルの方が圧倒的に速い。何度も言うけれど、MTの役目は速く走らせることではなく、楽しく走らせることにある。Mはそれを知っていたというわけだった。(
文:西川淳/写真:永元秀和、村西一海)